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杉林恭雄の珠玉のショートストーリーシリーズ

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田村充義氏の新作、
聞き録り屋と買い取り屋」完結。

平凡この上ない僕が始めたアルバイトとは…?

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2010年09月15日

聞き録り屋と買い取り屋 <最終回>

Story by 田村充義



他愛のない会話を続けながら、何分歩いたことだろう。
さすがに歩き疲れたシャネルは、川沿いの公園でようやく僕たち二人がベンチに座って話すのを許してくれた。
不思議なことに、僕ら二人を見上げるシャネルの表情は、交際を認める家族のように嬉しそうに見えた。
「なんだか、コージくんのことが好きみたい。普段は人見知りするのに」
「きっと、僕がミーコの彼氏になるのを許してくれたんじゃない?」
「カレシ?またまた、ちょっと展開が早過ぎない?」
「そうかな。僕は、昨日からそう決めてたけど」
ミーコは驚いたような表情で、僕の顔をじっとみつめた。
「ミーコ、オレと付き合って欲しい。こんなに可愛いシャネルとずっと一緒にいたい」
「ええ?そっちなの?」
「うそ、うそ。ミーコ、キミとずっと一緒にいたいんだ。僕とつきあって下さい」
「でも…アタシあんまり丈夫じゃないから、きっと心配かけるよ」
「ウザイって言われるくらい、いっぱい心配してあげるって」
「でも…」
「でもじゃなくて、付き合おう!」
僕は、強引にシャネルを抱いているミーコをそっと抱きしめた。
僕らの間でサンドイッチになったシャネルが「クン、クン」とビックリした声をたてた。
「シャネル、ごめんよ」
愛犬に一生懸命謝る僕を見ていたミーコが、「分かったよ。シャネルと同じくらい、私も大切にしてね」と言った。
「ヤッター!!もちろんだよ!大切にするって。メチャメチャ、大切にするってば!」
公園の木漏れ日が、祝福するように僕たち2人と1匹を黄昏色に包んでくれた。

翌日僕は、秘密kesshaに行った。
リチャードに訳を説明して、バイトをやめさせて欲しいと言いにね。
「本当に短い間でしたけど、すごく楽しかったです。なんだか、人生の何年分も勉強になったっていうか…」僕はテーブルの上にボイスレコーダーと変装眼鏡を置いた。
「また、えらい大げさやな。また気が向いたらまたくればいい。で、前の彼女とはちゃんと別れたんか?」
「はい。筋を通さないと…」
「彼女、なんやて?」
「なんだか、意外にサバサバしてました」
「ほほう。そうか、お互いに潮時やったんかもしれへんな。ほれ、これ餞別や」リチャードは財布から一万円札を抜き出し、そのまま僕に手渡した。
「いいんですか?」
「ええから、とっておき」
「お世話になりました。僕の聞き録った音が売れるといいんですが…。ロクでもない音ばかりで」
「そんなこと心配せんでええ。“必ず”売れるし」

事務所を後にした僕は、渋谷の街を歩きながら、最後にリチャードがいつもの「1、2、3、ダー!」をやってくれなかったことを思いだす。
なんだか物足りない気がしてくるのは、この数日で彼に飼いならされていたからなのだろうか。
そう言えば、ミーコとの会話を録ったあの日の音源は、いったい誰が買うんだろう?
住所もセットでリチャードに売ってしまったから、余計に気になる。
気になり始めると、どんどん悪い方に想像が膨らみ、僕はいても立ってもいられない気分になっていた。

――ピンポーン。
「お入り。待っとったで」リチャードが、戻ってきた僕をいつものように迎え入れた。
さっき、「ダー!」を省略したのは、僕がすぐ戻るのが判っていたからなのだろう。
「あの…。音を売って欲しいんですが」
「ほほう。どんなのが、好みなんや?」
「ですから、一昨日7000円で買い取ってもらったあの音と住所を…」僕はかけがえのない大切な宝物を取り戻したい気持ちで言った。
「ああ、あれな。ええよ。セットで3万2000円になります」
「さ、3万2000円…!」
「買うのんか?買わへんのんか?」
「か、買います」
ミーコと出会った日の想い出の一杯に詰まった音は、今の僕にとって充分にその価値があったようだ。
僕は、さっき貰ったばかりの1万円の餞別にこれまでのギャラやら自分の小遣いやらを足してテーブルに置いた。「これでよろしくお願いします」
「毎度、おおきに」リチャードは、嬉しそうに言った。「な、心配せんでも“必ず売れる”と言った通りやろ?」
「は、はあ…」
「それからな、今渡したんはコピーやで。原盤は別の場所に大事に保管してあるさかいに安心しいや」
「えっ、じゃあその原盤からまたコピーして売るってことですか?」
「すやなあ、こんな甘くってピュアな話しは最近あまりあらへんさかいに、ぎょうさん売れるんちゃう」
「げ、原盤も買い取らせて下さい。お願いします!」
「高いで」
「幾らでも払いますから」
「このセットのマスター原盤は、32万円になります。分割払いもあるで」
「ええ!?」
「なあに、働いたらすぐに返せるがな」
リチャードは、僕にボイスレコーダーを渡すと、「1、2、3、ダー!」っとドアの外に送り出した。

「32万、32万…」
よろよろと渋谷駅に向かって歩いている僕の横を、JKとおぼしき2人連れが笑いながら通り過ぎて行った。
「昨日さあ、センター街でナンパしてきた男がさあ…」
僕はポケットの中からボイスレコーダーを取り出して…。 



<了>
posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 07:23| Comment(0) | 田村充義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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