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杉林恭雄の珠玉のショートストーリーシリーズ

「YUMI」

「KOU」

「UMI」

「NAOKI」

「MICHIRU」

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「走る女」 by 田村充義
バブル絶頂期に知り合い、やがて別れてしまった恋女房。
オレは神宮外苑の周回路を走る彼女に、時を隔て再び出逢った。
Mid40世代の恋愛小説。

「ゾロ目の法則」 by 田村充義
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いっぺんに訪れた歌手デビューと恋。さて気になるその行方は?

「宇宙の3犬人 〜Three Dog Knights」 by 田村充義
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「女子アナオールスター 」 by 田村充義
原宿に愛をはぐくむ縁結びの美容室があるとか…?!

「ゲンジツトウヒローのダックウォーク」 by 田村充義
エアギターに賭ける青春物語…。

「30年目のガールズトーク」 by 田村充義
45歳、独身。
30年後のクラスメイトたちの恋の行方は?
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田村充義氏の新作、
聞き録り屋と買い取り屋」完結。

平凡この上ない僕が始めたアルバイトとは…?

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2009年03月26日

KOU

Story by 杉林恭雄



空は見渡す限り灰色。向こうの方の山も灰色。足元を流れる川も灰色。
町はもちろん灰色。
オレの足も灰色。体も、腕も、頭も全部灰色だ。
ただしオレがかかえているこのクッションだけは青色だ。
なぜってコレが青空だから。
オレは世界中のすべての青空を、ちょうどこんなくらいの大きさにして抱え込んでいる。
オレが青空を抱え込んじまったせいで、世界中から青空も、色も消えちまったんだ。
どんなもんだ。
すっからかんだろう?
返して欲しい?
返して欲しいだろうな。
いいよ。オレはこんなもん欲しかない。
お前らにくれてやろう!
コウは立ち上がると、抱えていた空をおもいっきり斜め45度に投げた。
 空は1メートルくらい斜めに進んだ後、結局ふわふわと風船のように上へ昇っていった。
空はある高さまで昇ると音もなく爆発した。
「どかーん!」
代わりにコウが声を張り上げた。
 すぐにコウの頭上に空が広がった。
すべてもと通り。
世界は色で溢れかえった。
けれども今度はコウが空っぽになった。
ただぽかんとした空白の中に何もない、ただのすっからかんになった。

「ちぇっ」
コウは自分の妄想にうんざりした。
それはサトシの歌詞の中にでてくる世界だった。
コウの体は相変わらず、河原の土手の上に寝そべっていた。
 「もういいや」
 ちょっと口に出してみた。
 「かってにしろ」
 もう1度。
 「かーってにしろ」
ちょっと気分が良くなった。
 でももうバンドは無くなってしまった。
コウは、「オレはもう2度とギターを弾くことはないだろう」とみんなの前で宣言している自分を想像してみた。
意外にかっこ悪そうだった。
オレのギターなんてたいしたことないもんな。
こんなんじゃプロになれるわけでもない。
サトシ、おまえは凄いよ。
おまえだけかってにやっていけばいい。おまえにならどんなギターもついていく。
 

なんだかもうバイトに行くのもいやになった。
でも今夜はミッチも遅番の日だ。
ミッチには会いたいな。
ミッチは俺たちのライブも見に来てくれた。
バンドが終わっちまったって言ったら悲しむかな。
ミッチは誰が好きなんだろう。
きっとサトシだろう。
それってあんまりだよ。
あいつはいつも女の子をとっかえひっかえしてる。
アヤにも手をだした。
アヤはオレが連れてきたんだ。
アヤのキーボードはまあたいしたことないけど、コーラスはけっこういける。
ルックスもまあまあだろう。
でもやっぱりミッチだ。
ミッチはアヤほどおっぱいは大きくないけど、
なんといってもなんかこう、すらっとしてるよな。
おいおい、オレはおっさんか?

「はっはっはっはっは」
とりあえず笑ってみると、ドラマのセリフのようだった。
「えーっと、なんだっけ?」



土手からはゆっくりと流れる川が見えた。
空は青かった。
でも川は薄く墨を溶いたような色に見えた。

コウは今度は本当に立ち上がった。
ジーパンについた土や草を乱暴にはらった。
どうやら土手は思った以上に湿っていたらしい。
パンツまで湿ってしまったのが気持ち悪かった。

コウは土手の上の遊歩道まで大またで駆け上がった。
川はいつもよりずっと大きく見えた。2日前の雨のせいだ。

オレもギターだけじゃだめだ。何か歌を歌わなくちゃ。
オレの歌を歌うんだ。
そうしたらきっとミッチもオレを見直すだろう。

なんなんだ?
オレは何を歌うんだ?
とにかく声を出すんだ。
なぜお前はいつも黙っている?
なぜお前は人前でちゃんとしゃべれないんだ?
おまえはまだ親父が怖いのか?
親父の怒った顔を見るのが怖いのか・
なぜミュージシャンになると親父の前で言えないんだ。
弱虫コウって呼ばれてくやしくないんかー。
なんだとー。
けっ、なにが「オレはこんなもん欲しかない」だよー
かっこつけすぎなんだよ!
オレは青空が欲しいんだよ!

「あー憧れのーポケモンマスターにいー」
意外な歌が飛び出した。
結構でかい声が出た。

「なりたいなーならなくちゃーぜったいなってやるー」
小学生の頃よく歌っていたアニメの主題歌だ。
テンションがあがった。

「オレはこの町を出る!」
犬を散歩させていた自転車のおっさんがよろけそうになった。
「オレは東京へ行く!」

よし、最初はミッチに伝えよう。
わたしもいっしょに行くって言わないかな?
言うわけねーよ。
かまうもんか!
それからお袋だ。
お袋は泣くかもしれない、でもきっと最後は賛成してくれるだろう。
親父はどうする。
黙って行っちまおうか?
だめだだめだ。ぶたれてもいいからちゃんと言うんだ。
どっちみちオレは出て行くんだ。
サトシには黙っていよう。
あんなやつ知るもんか。

それからコウは駆け出した。
「オレはこいつと旅に出る、ミッチィー、なんつって、ははは」
前を自転車で走っていた女子高生の2人組みが、不審そうな顔で何度か振り返った。
でも別にスピードを上げるわけでもなかったので、コウはあっという間に追いついてしまった。
「かならずゲットだぜ ポケモンゲットだぜいえいえいえいえい」
「えいえいえい」のところでちょうど自転車を追い抜いた。
女子高生たちは顔を見合わせてふふふふっと笑った。
コウは女の子のほうに気をとられて、道に落ちていた大きな枝につまずいた。
そして、大きく前につんのめって、2,3歩よろけた後で手をついて、そのまま道に転がった。
「いてててて」
女子高生たちは少し前で自転車を止め、振り返って、
「大丈夫ですかー?」
と聞いた。
コウはすぐに立ち上がると、
「大丈夫です」
と小さな声で言った。
手のひらとひざをすりむいたようだ。

女子高生たちはきょとんとしている。
その顔を見たら、顔がかーっと熱くなった。
うわーっ、最悪だ。
このままつっ立ってるか。
走って逃げるか。
コウよ、おまえってやつは。

しかしコウは自分でも意外なことに、満面の笑みで右手を前に突き出し、女子高生に向かって
「ポケモンゲットだぜ!」
と言った。

彼女たちはますますキョトンとしている。
オレ何やってんだ。
みじめだ。すべて終わった。

ところが向かって右側の女の子がハンドルから手を放すと、
「イエーイ」
と言って、拍手をしだした。
びっくりした顔でその友人の顔を見ていたもうひとりの子も、
「あははは」
と笑い出して、一緒に拍手をしだした。

コウはいつもライブでやっているように
「サンキューウ」
と言った。
彼女たちは、
「イエーイ」
と、ますます盛り上がった。

盛り上がってはみたものの、その後どうしていいかコウにはわからなかった。
それで、もう1度、
「サンキュー」
と手を振って、それから土手を町のほうへ向かって走り降りていった。
 もう彼女たちのほうは振り向かずに、どんどんどんどん走っていった。

夕焼けが、空で燃えはじめていた。
女子高生たちもまた自転車をこぎだした。何か楽しそうにおしゃべりしながら堤防の上の道を家路についた。
コウの姿はどんどんちいさな影になり、橋の近くのスーパーの角を、町のほうへ曲がってしまったところで、完全に見えなくなった。


コウはもうすぐ町を出るのだ。




END





松本梨香『めざせポケモンマスター』

杉林恭雄(すぎばやし やすお)
80年代にニューウェイブハンド「くじら」を他のメンバーと共に結成。
紆余曲折はありましたが現在も活動中。
詳しくは、くじらのウェブサイト
をご覧ください。
【杉林恭雄の最新記事】
posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 10:31| Comment(0) | 杉林恭雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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