STAGE2 Back Number
タイトルをクリックすると、その物語のトップにジャンプします。
お好きなコンテンツをお楽しみ下さい!


杉林恭雄の珠玉のショートストーリーシリーズ

「YUMI」

「KOU」

「UMI」

「NAOKI」

「MICHIRU」

杉林恭雄氏のブログも、ぜひ訪問してみてください。
きれいなイラストと美しい散文が毎日アップされていますよ。(事務局大推奨)
くじらテレビもぜひ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

全編完結の連載小説はこちら!

「走る女」 by 田村充義
バブル絶頂期に知り合い、やがて別れてしまった恋女房。
オレは神宮外苑の周回路を走る彼女に、時を隔て再び出逢った。
Mid40世代の恋愛小説。

「ゾロ目の法則」 by 田村充義
小さな出版社でバイトをしていたわたしは、占い本の企画をしただけだったのに…。
いっぺんに訪れた歌手デビューと恋。さて気になるその行方は?

「宇宙の3犬人 〜Three Dog Knights」 by 田村充義
あなたの愛犬が、宇宙からの使者だったりして…。

「女子アナオールスター 」 by 田村充義
原宿に愛をはぐくむ縁結びの美容室があるとか…?!

「ゲンジツトウヒローのダックウォーク」 by 田村充義
エアギターに賭ける青春物語…。

「30年目のガールズトーク」 by 田村充義
45歳、独身。
30年後のクラスメイトたちの恋の行方は?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


田村充義氏の新作、
聞き録り屋と買い取り屋」完結。

平凡この上ない僕が始めたアルバイトとは…?

////////////////////////////////////////////



◆このブログが気に入ったら、つぶやいてみんなに知らせてください。

2009年04月01日

UMI

Story by 杉林恭雄



<前編>

光がとってもきれい。
大きな木の枝の、あんなわずかな隙間を抜けて、光が矢のように射し込んでくる。
わたしはあの矢に撃ちぬかれたい。
そしてアツシの胸の中に落ちていきたい。
わたしは今、アツシと腕を組んでいる。
そしてジグザグに進む。
この動きが大好き。
わたしはアツシのことが大好き。
いつもアツシと一緒にいたい。
こんなふうに1日外にいると、髪も肌もほこりっぽくなる。
まるで何日もお風呂に入っていないみたいな気分になる。
わたしは砂漠の民だ。
砂漠の民は寡黙だが、何かを成し遂げる。
わたしはずっとずっと自分のことが嫌いだった。
わたしの眉毛はとっても濃くてゲジゲジみたいって言われて、自分でも嫌だったけど、今はそれが誇らしい。
わたしは砂漠の民なんだ。


ウミは教室の窓際の席に座ってぼんやりと外を眺めていた。窓を少し開けると、秋の気配を抱いたさわやかな風が、ほほを撫でていった。
あの後アツシたちが話していたことは、わたしには良く分からない。
沖縄、安保、それくらいわたしにだって分かる。でも、なんとかっていう名前の人、そんな人知らない。もっと本を読まなくちゃ。
ウミは、アツシたちの言った色々な言葉を糸でつないで、わっかを作り、もう1度頭の中でゆっくりふた回りくらいさせてみた。
けれども別段何の感想も生まれてこなかった。
うーん、わたしはバカだ。
試しに、そのわっかの真ん中にアツシの横顔を置いてみた。
今度はがぜん、世界が輝きだした。
わっかもぐるぐるとすごい勢いで回っている。
ウミは楽しくなってきて、教室の隅でひとりニヤニヤした。
「西田君、ちょっと」
教授が呼んでいる。
「西田君」
「あっ、はい」
「わたしの部屋に来なさい」
そう言って教授は出て行った。
講義はとっくに終わっていたらしい。

「そろそろあんなことはやめるべきだな」
研究室の椅子に深々と腰を掛けながら、教授はちょっと呆れたというふうに、そう言った。
「あそこは君のいるべき場所じゃない。第一、ご両親はご存知なのか?」
ウミは教授の頭の向こうにかかっているカレンダーの風景写真をなんとなく見ていたが、はっと我にかえり、低い声で、
「はい?」
と聞き返した。
教授はそれ以上何も言わなかった。

研究室を出てみると、廊下は学生であふれていた。
ウミは生協の食堂に入り、列に並び、トレイにBランチの皿を受け取り、空いているテーブルを探した。
背中から誰かが呼んだ。
「ウミ」
アツシだとすぐに分かった。
顔がかっと熱くなった。
それですぐには振り向かなかった。
「こっちで一緒に食べない?」
ウミは首をすこし傾けるくらいだけ振り返って、
「アツシか。しょうがない、食べてやるか」
と言った。
ごはんを大盛りにしなくて良かったと思った。

ウミとアツシはテーブルを挟んで食事をした。
「教授がさ、もうあんなことやめなさいって」
「そう」
ウミは茶色の薄いセーターを着ていた。
いつもより強調されたウミの胸のかたちにアツシがふと視線をとどめた。
ウミはその視線をちらっと追った。
アツシはどうして声をかけてくれたのかな。
「ウミ」
わたしのことどう思っているんだろう。
「ウミ」
「えっ、何?」
「僕もそう思うよ」
一瞬何のことか分からなかった。
「ウミはもうやめた方がいい」
ウミは無言でしばらくアツシをにらみつけた。
「ほんとにそう思うの?」
「うん、でももちろん最後はウミが自分で決めることだけど」
「バカにしてるんでしょう」
「ちがうよ、そうじゃない。僕はウミのことが心配なんだ」
結局そのあとウミは、ひとことも口をきかずに、粘土でも食べるみたいにランチを食べ、ぷいと席を立った。


国鉄の駅の裏側には風俗店が立ち並んでいて、ちょうどそのいちばん端っこのところに、ぽつんと古本屋があった。それは古いビルの2階、細い階段をのぼっていったところにあった。
ある日ウミがその古本屋に行くと、「JACK」という名のロック喫茶に変わっていた。
なんだかしんとしていたが、ドアのノブには「OPEN」の札が下がっていた。
ウミは恐る恐る古本屋の時と同じそのドアをあけてみた。
中では、ひげ面で長髪の若い男が、ぼんやりと椅子に座りタバコをふかしていた。
店は薄暗く、客はいなかった。そしてレコード盤が回るときの針音だけが聞こえていた。
男はウミのほうをちらりと見ると、
「お客さん?」
と聞いた。
ウミは、
「お客さん」
と答えた。
ウミは、
「店の人?」
と聞いた。
男は、
「マスター」
と答えた。
そんなふうにしてウミは「JACK」に通いだした。

店に行くと、マスターはいつも、新しく手に入れたアルバムを見せた。
そして「うん、これはいいよ」とか「こいつらはもう解散だな」とか寸評した。
ウミは適当に「へー」とか「そうなんだ」とか返事をした。

アツシと気まずい昼食をとった日の夕方も、ウミは「JACK」を訪ねた。
「どうしたのウミちゃん?そんな顔して」
「べつに、不味いコーヒーが飲みたいだけ」
「ははは、じゃあ、とっておきのやつ」
マスターはそう言うと、1枚のアルバムをもって来た。
スライ&ザ・ファミリーストーンの「スタンド!」というアルバムだった。
「うん、こりゃいいよ、うん、強くオススメ」
マスターはひげを触りながらそう言った。
灰色の巨大なスピーカーボックス。
上にはラッパみたいなのが載っている。
-俺はこのオーディオシステムに全財産をつぎ込んだ
-うわーっ、ひょっとしてお金持ちの御曹司?
-うん、まあ、そんなところかな。ただし、俺もコイツもニセモノだけどね
その巨大なスピーカーからまず針音が聞こえ、そしてドラムのロールがはじまった。
「STAND!」
大きなゆったりしたリズム。
歌声はなんだかだみ声、でも柔らかく、とてもリラックスしていた。
あれっ、どこかへもっていかれちゃいそうだ。
ウミはそう思った。
自然に肩が揺れた。
マスターの方を見ると誇らしげに親指を上に立て、ニカっと笑っている。
ウミもちょっとだけ笑い返した。
カップルが隅っこで抱き合っていた。ふたりとも髪を長く伸ばしていて、まるで双子みたいに見えた。

「STAND!」
そう歌っていた。
あとは良く分からない。
ウミは体を揺らせて音楽の中に入り込んだ。
曲は後半になって激しくグルーブしはじめた。

「STAND!  STAND!  STAND!」

ウミは今すぐ椅子から立ち上がりたくなった。
おしりがむずむずしてきた。
マスターの方を見ると、もうカウンターの中にしゃがみこんで、ぼんやりとタバコをふかしている。
カップルは、熱心にキスしている。
ウミは、
「自分は立ち上がるんだ」
と思った。

「アツシと一緒の世界にいたいんだ」


後編へ…


Stand - Sly and the Family Stone


杉林恭雄(すぎばやし やすお)
80年代にニューウェイブハンド「くじら」を他のメンバーと共に結成。
紆余曲折はありましたが現在も活動中。
詳しくは、くじらのウェブサイト
をご覧ください。
【杉林恭雄の最新記事】
posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 17:01| Comment(0) | 杉林恭雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。