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杉林恭雄の珠玉のショートストーリーシリーズ

「YUMI」

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平凡この上ない僕が始めたアルバイトとは…?

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2009年04月14日

NAOKI

Story by 杉林恭雄




<1>

はじめてカナイさんを見つけたとき、雑誌の「小学4年生」の表紙に出てくる女の子みたいだと思った。
それから、王子様の助けを待つ、囚われの身のお姫様みたいだと思った。
今朝、家を出て学校へたどり着くまでの間に、ナオキは何度も、前に住んでいた町のことを恋しく思い出していた。仲の良かった友だちの顔がこころに浮かんだ。
でもカナイさんを見て、そんな気持ちはどこかへ行ってしまった。


「あぶにゃーぞ、伏せろ!」
班長が叫んだ。
ナオキには何がなんだかわからなかった。
「たわけかっ」
そう言うと彼は、ナオキの頭を土手の方へ押し付けた。
全員が、道路の横の土手に体を伏せた。
それは山を切り崩したあとの土を積み上げて作った、なんとも嫌なにおいのする土手だった。
みんな夏休みの宿題の工作をささげ物のように持ち上げて、壊れないようにしている。
ゴゴゴゴゴという地鳴りの音がして、道いっぱいの巨大なダンプカーがガクンガクンと揺れながら、ナオキたちのすぐ脇をゆっくりと通り過ぎて行った。ダンプは山のように積んだ土を、揺れるたびに道路に落として行った。
ナオキはそれでもまだ、何がおこっているのかよくわからなかった。
足にかかった土を払って、起き上がろうとすると、もう1度班長が、怒鳴った。
「たわけ!死にたいんかて!」
今度は、ゴー、ガシャン、ゴー、ガシャンというものすごい音をたてて、土けむりの中を、ショベルカーを積んだトラックが通り過ぎて行った。



国のいたるところで、もともとただの山だったところを、無理やりに切り開いて、次々と新しい団地がつくられていた。
毎日毎日、山が削られ、そして膨大な数のダンプカーが行ったり来たりしていた。
ナオキの一家は、その団地のひとつに抽選で当たって引っ越して来たのだ。

今度は、あともう少しで学校というところで、後ろを歩いていた5年生が、ナオキのランドセルを思いっきり引っ張った。
ナオキは派手に後ろにひっくり返った。
「もっと速く歩け、バカ」
と、そいつは言った。
ナオキは起き上がるとすぐに、そいつにつかみかかった。
そいつのへたくそな工作が吹っ飛んで、そいつが泣いてナオキも泣いた。
前を歩いていた班長が、2人の耳をつまんで上に持ち上げた。
「たわけ!」
と言って、そのまま放り投げた。
学校に着いたとき、ナオキの顔は涙と泥でぐしゃぐしゃになっていた。
 
そんなふうにして、ナオキは今朝、学校にたどり着いた。
そして、最初の朝の点呼の時、先生が、
「カナイフクコさん」
と言い、大きな声で、「はい」と答えたその声の方を見たとき、ナオキはもう恋をしていたのだ。
「新しい転校生のタニザキナオキくんです」
先生がナオキを教壇の前で紹介しているあいだも、カナイさんのことをちらちらと見ていて、こころは上の空だった。
カナイさんの髪は乱暴に切ったようなおかっぱで、それが、くりっとした大きな目と、ちいさなかわいらしい口によく似合っていた。
着ている服は、誰かのおさがりのような、色あせた薄いピンクのブラウスで、胸のところのバラの花の刺繍には、もう色が残っていなかったけれど、カナイさんは、それを大人の女の人のようにきちんと着て、まっすぐこちらを向いて座っていた。
ナオキの目にはその姿が、まるで、囚われの身のお姫様のように写った。

どうやってカナイさんに話しかけたろうか。
席が離れとるのに、わざわざ何か聞きに行くのも変だし。
でもまあええか。
それで休憩時間にカナイさんの近くへ行き、何気ない感じで、
「図書室はどこにあるの?」
と声をかけてみた。
すると、ざわざわしていたクラスが、一瞬にして静まり返ってしまった。
カナイさんもじっと黙っている。
その反応にナオキはたじろいだが、
「ちょっと本を見に行ってみたいで」
と続けて言った。
誰かが、
「おい、カナイの近くに寄ると病気がうつるぞ」
と言った。
「はっ?」

その言葉をきっかけにして、クラス中が大騒ぎになった。
ひょろっとしたのが、
「くさゃーのがうつるぎゃ」
と言った。
太ったのが、
「カナイのかあちゃんはフシダラだで」
と言った。
「フシダラ?」
「カナイのかあちゃんは給食費を払っとらん」
男子が何人か声を合わせ、
「カナイ、クサイ、クサイ」
と言いだした。
ナオキはクラスの騒ぎに、ただびっくりして、そして混乱してしまった。

そのあいだ、カナイさんはじっと黙ったまま、大きな目で前を見ていた。
カナイさんがほほを紅潮させたので、ナオキは泣きだすのかなと思った。
でも、カナイさんは良く通る澄んだ声で、
「わたしはくさくない」
と言った。
それから、
「かあちゃんの悪口を言わんで」
と言った。

そこに先生が入ってきて、睨みつけると、みんなを席につかせた。
ナオキはまだ混乱していたが、カナイさんがみんなからひどく嫌われているということだけは理解した。
そして最後に聞いたカナイさんの声に、しびれていた。


続く…


杉林恭雄(すぎばやし やすお)
80年代にニューウェイブハンド「くじら」を他のメンバーと共に結成。
紆余曲折はありましたが現在も活動中。
詳しくは、くじらのウェブサイト
をご覧ください。

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posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 18:08| Comment(0) | 杉林恭雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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