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杉林恭雄の珠玉のショートストーリーシリーズ

「YUMI」

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「UMI」

「NAOKI」

「MICHIRU」

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「走る女」 by 田村充義
バブル絶頂期に知り合い、やがて別れてしまった恋女房。
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聞き録り屋と買い取り屋」完結。

平凡この上ない僕が始めたアルバイトとは…?

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2009年04月25日

MICHIRU

Story by 杉林恭雄


© Yasuo Sugibayashi

(T)

獣医は医院の玄関のところでミチルをひと目見ると、
「ああこれは首が折れてますね。何かで挟んだんでしょう。残念ですが」
と言った。
それからシンイチが帰ろうとすると、
「あっ、診察代を払っていってね」
と少し申し訳なさそうに言った。
シンイチは雨の中、首で傘を押さえ、両手でミチルを包むようにして、帰って来た。

今、シンイチの手のひらの中で、ミチルは半分くらいの大きさになった。
さっきまで懸命に膨らませていた羽が力を失い、しぼんでいき、まるで雨に濡れたみたいに、からだにはりついていった。
ミチルはもう死んでしまったんだと思った。
そうだ、ハンカチで包んでやらなくちゃ。
どこかに無かったかな。
シンイチは胸のところで、片方の手のひらにミチルをのせ、もう片手で、衣類が全部つっこんであるプラスティックのケースの中から、しわくちゃのハンカチを探し出した。

その時、ミチルがシンイチに声をかけた。
「ねえ、シンイチ」
「えっ?」
「わたしよ、ミチル」
シンイチは1回後ろを振り返ってから、今度は手のひらの中のミチルを見た。
「ミ、ミチ、チ?」
ミチルはやっぱりもう動かない、でも確かにシンイチに話しかけている。
「シンイチ驚いた?まあそうよね、でも驚くのはまだ早い!」
「は、はい」
「そのハンカチをわたしにかけて!」
シンイチは言われたとおり、ハンカチをかぶせた。
「はい、とって!」
ハンカチを取ると、手のひらの上には、夏っぽい水玉模様の白いワンピースと、白いソックスの、かわいらしい少女が横になっていた。
少女は「よいしょ」と言いながら手をついて上体をおこし、それからシンイチを見上げてにっこりと微笑み、手を広げて、
「ジャーン!ミチルよ。どうかわいい?」
と言った。
手のひらがくすぐったかった。
「あ、あの」
「ねえ、ここじゃぐらぐらするわ、あそこにおろして」
ミチルはテーブルを指差した。
シンイチはテーブルの上のこまごまとしたガラクタを片手で隅に押しやって、空いたところにミチルを下ろした。
「だめよ、ちゃんと掃除しなくっちゃ、いくら男の1人暮らしとは言えね」
「あ、はい」
ミチルはテーブルの上のクッキーの缶の上に、ちょっとほこりを払う仕草をしてから、腰掛けた。
「シンイチも突っ立ってないで、座りなよ」
シンイチは言われるまま、ミチルと向かい合うように椅子に座った。

風にのった雨が、ぱらぱらと窓にあたった。
ミチルは一瞬、その音にハッとしたように、目をそちらへ向けた。
「ねえシンイチ、びっくりさせちゃってごめんなさい。これ夢じゃないわよ。でもあんまり説明してる時間がないの。わたし急いでるの。だから、こんなもんだと思って」
「コンナモン」
シンイチはポカンとした顔で繰り返した。
「ねえ、しっかりして。こんなにかわいらしい女の子とデートなのに、デートの時間はとってもとっても短いの。いい?」
「はい」
「それよりミチルを見て、何か言うことない?」
「言うことって、その」
ミチルは立ち上がると、スカートのすそを持って、くるりと1回転した。
「ほら」
「ほら?」
今度は手を広げて、ぐるんと回った。スカートがふわっと広がった。
シンイチはただただ、あっけにとられていた。
「わあ、上手だね」
「ちょっと、だからちっともモテないのよ」
「はっ?」
ミチルはじっとシンイチを睨みつけている。
「あっ、すごく、あの、きれいです」
ミチルは不満そうに、
「まあいいわ、ねえこんなのがタイプでしょ?」
「えっ?」
「わたし知ってるんだ、シンイチのコ・ノ・ミ」
「あっ」
シンイチは、はっと顔を赤くした。
ミチルの着ているワンピースは、シンイチお気に入りの女の子がグラビア雑誌の中で着ていたものと、まったく同じものだった。
「そう、あの子が裸になっちゃう前に着てるやつ。ねえ、エッチな本見すぎよ」
「あ、あの、それじゃ」
シンイチの顔はますます赤くなってきた。
「はい、全部、つぶさに見させていただいてました」
ミチルはそう言うとあごで、部屋の隅にかかった鳥かごを示した。
「そ、そんな。ひどいよ。だって、ヤバイ、もっと早く」
汗が噴き出した。ちょっと、ちょっと、オレ何やってんだろう。それにこの子、本当にミチ・・・オレどうかしちゃったのか?
シンイチは完全にミチルのペースにはまってしまった。
「いいのいいの、わたしだって見た目はこんなだけど、子どもじゃないのよ。それにシンイチが彼女とか連れてきたらどうしようってずっと心配してたの。そんなのとても見てられないもん。まあ余計な心配だったけど」
「・・・」
「ねえ、ミチルの裸も見たい?ちょっとちっちゃいけど」
「えええっ」
「正直に言いなさい」
いじめっ子みたいな目になっている。
「あ、あの」
「正直に言ったら、見せてあげる。どう?」
「あ、はい。見たいです」
「ほんと?」
「はい」
「バカ、冗談よ」
「うっ・・・・・・」
何だ何だ?オレ、バカにされてるのか?。
「フフフフ」
「・・・・・・」
ミチルは満足そうに笑っていたが、シンイチがちょっと腹を立てているのを見て、今度は少し上目使いになって、
「ごめん、怒った?」
と甘えるように聞いた。



(U)に続く…


© Yasuo Sugibayashi

杉林恭雄(すぎばやし やすお)
80年代にニューウェイブハンド「くじら」を他のメンバーと共に結成。
紆余曲折はありましたが現在も活動中。
詳しくは、くじらのウェブサイト
をぜひご覧ください。


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posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 20:00| Comment(0) | 杉林恭雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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