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杉林恭雄の珠玉のショートストーリーシリーズ

「YUMI」

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全編完結の連載小説はこちら!

「走る女」 by 田村充義
バブル絶頂期に知り合い、やがて別れてしまった恋女房。
オレは神宮外苑の周回路を走る彼女に、時を隔て再び出逢った。
Mid40世代の恋愛小説。

「ゾロ目の法則」 by 田村充義
小さな出版社でバイトをしていたわたしは、占い本の企画をしただけだったのに…。
いっぺんに訪れた歌手デビューと恋。さて気になるその行方は?

「宇宙の3犬人 〜Three Dog Knights」 by 田村充義
あなたの愛犬が、宇宙からの使者だったりして…。

「女子アナオールスター 」 by 田村充義
原宿に愛をはぐくむ縁結びの美容室があるとか…?!

「ゲンジツトウヒローのダックウォーク」 by 田村充義
エアギターに賭ける青春物語…。

「30年目のガールズトーク」 by 田村充義
45歳、独身。
30年後のクラスメイトたちの恋の行方は?
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田村充義氏の新作、
聞き録り屋と買い取り屋」完結。

平凡この上ない僕が始めたアルバイトとは…?

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2010年05月07日

30年目のガールズトーク<1>

Story by 田村充義



原宿駅で閉まりかけのドアに飛び込んで来た女性は、ホームに残した女友達に軽く手を振ると、私の隣に座った。
年齢は、私と同じ位だろうか。
カジュアルに着飾った彼女は結構スタイルが良く、若者風の中折れ帽もなかなか板についている。
ごく自然に私が横目で観察してしまったのは、彼女がそうしたくなる雰囲気を持っていたからだろう。
そんな視線を無視して、彼女はバッグから銀色のテープを取り出すと、それを弄ぶようにおもむろに自分の指に巻き付け始めた。
テープには、赤色でユンなんとかと人の名前らしき文字が書いてある。
あれは多分、コンサートの時に客席に向かって打ち出される特殊効果のテープじゃないだろうか。
たぶん“ユン何がし”は韓流スターの名前、そして彼女はそのコンサートの帰りなのだろう。
(いい気なもんだ…)あまり気の進まない中学の同窓会に出た後だった私は、思い切り楽しげな彼女がなんだかうらやましく思えた。
仕切り屋の田中亜紀に強引に誘われてしかたなく出席したけど、やっぱり行くんじゃなかった。
そもそも疎遠になっていた私を、あんなに誘うのには何か訳があるとは思ったけど、やっぱり幹事としての動員力を誇示したかっただけみたい。
派閥の多かったクラスのみんなをこんなに集めるのって意外に大変なのよと、皆にひとしきり苦労話をすると、亜紀は飲み物カウンターのあるセンターテーブルの席に陣取ってゆっくりと飲みに徹していた。
必然的に誰もが飲み物のお変わりを取りにいくと、彼女のシマに入ることになるので、ついでに挨拶しカンパイすることになる。
あれでは、まるで上司に対する部下みたいだ。
「ひょったしたら高谷さんじゃありません?中3の時に同じクラスだった高田です。憶えてますか?」
中学の同窓会のことを考えてたら、隣に座った韓流ファンが急にそう話しかけてきたもんだから、思い切り面食らって声も出ない。
「やっぱり、高谷さんだ!出席番号が一つ前の高田ですって。奇遇ですね。結婚式の帰りかなにか?綺麗な服着ちゃって」
出席番号を持ち出され、私はやっと韓流ファンのルーツを思いだした。
「高田さんて、あの高田さん?わあ、久しぶり!今日は、同窓会だったのよ。知らせは行かなかったの?」
「そう言えば、そうだったっけ。でも今日は大事なライブだったから、すっかり忘れてたわ」
「でも行かなくて正解だったかもね」
「へえ。どんなだったの?」
「田中亜紀、覚えてるでしょ?彼女が幹事だったんだけど、得意顔で仕切っててさ。ちょっと面倒くさくなって、先に出て来ちゃった」
「田中亜紀って、確かクラス委員長だったよね。まだそんな事してんだ」
「結婚しても実家の近くに住んでるから、同級生とは昔の関係のまま顔がきくみたい」
「そう言えば、彼女にこの前会ったよ」
「どこで?」
「言っちゃっていいのかなあ。実はさあ、部屋をお掃除してもらったのよ」
「えっ?意味わかんないんだけど」
「そうだ!面白いから今度3人で会わない?その時に話すから、聞かなかったことにしておいて」
「イイけど…田中にはそっちから連絡してよね」
「もちろん!」
赤外線でアドレスを交換し終わると、電車はもう新宿駅に滑り込んでいた。
「私、ここで降りるから。また連絡するね、さよなら〜ッチ」
乗り込んで来た時と同じ様に、バタバタと高田真子はホームに飛び出して行った。

高田って、驚くほど中坊の時と変わらないなあ。
甘えた言い方も、さよなら〜ッチって意味不明の語尾もまんまだから懐かしい。
そう言えば、私の出席番号は高田真子と田中亜紀の間だったっけ。
それが理由ではないが、3人で話す機会はけっこう多かったかもしれない。
田中はクラス委員長でキリッとした目鼻立ちの整った優等生タイプ、高田はオシャレでスタイルも良く、明るくてクラスの人気者だった。
間に挟まれた私は、成績はまあまあだったけど、子供っぽい丸顔が嫌でクールを気取っていた。
男子の人気投票では、田中と高田がいつもクラスの1、2位を争ってた。
私は、かなり票差をつけられての3位ってことが多かった。
男子たちの意見はこうだった。
「田中は整ったキツネ顔。高田は美人の条件の揃ったサル顔。高谷は愛嬌があるタヌキ顔」
あまり褒められた感じはしなかったが、ショートカットが似合う顔だとおだてられ、調子に乗って美容院に駆け込んだりしたものだ。
思い返せば、私によく話し掛けてくれるのは田中、高田の二人位だった。
もしかしたら、他の女子は私たち三人の人気者を敬遠していたのかな。
三人でつるむことが多かったのは、そのせいだったのかもしれない。
でも中学校を卒業してからは、別々の道を歩みあっという間に疎遠になって行った。
最初の頃は年賀状を送りあったりしたものだが、二人から結婚をしたという挨拶状が届いたのを最後に音信は途絶えた。
あれから何年になるだろう。
どこでどう暮らしているのか、今日まで知らなかった。
まさか、その二人に同じ日に合うなんて。
ひょっとしたらこれを契機に、また付き合いが始まるのかもしれない。

旧友たちとの思いがけない再会のせいで、私は一人になった車中で忘れかけていた想い出を次々に辿り始めていた。
私は、今年45才になる。
でも、高谷裕子という名前はあの時のまま。
クラス会で、みんなは旧姓で呼ばれると新鮮とか言っていたが、あれがどうしても嫌味に聞こえてしまう。
高田と田中も今日旧姓を名乗ったが、独りに戻ったのだろうか。
あの二人と中野坂上の中学で机を並べていた頃から、もう30年も経っている事になるとは。
その気が遠くなるような時間の間、私はずっと実家に住みエレクトーンを教えている。
大学生の頃バイト気分で始めたことがまさか本職になり、こんなに続いてしまうとは夢にも思わなかった。
普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通に主婦をやってるはずだったのだが。
あの二人はどうなんだろう。
果たして、思い通りに人生を歩めたのだろうか?
私は高校から音楽の道を志し、大学を卒業したら漠然と音楽関係の仕事に就くものと思っていた。
演奏者としての卓越した技術や意欲もなく、特別な才能があるわけじゃなかった。
大学を卒業する頃はちょうどバブルの真っ最中で求人も多く、中には音楽関係の仕事に就いた友人もいた。
音楽をきっぱり捨てて一流企業に就職した人も多かった。
その頃の私はと言えば、エレクトーンを教える事が面白くなっていて、企業に就職すると言う選択は思いつきもしなかった。
駅前のエレクトーン教室で大勢の生徒を持ち、訪問レッスンもたくさん頼まれる。
自宅にお中元やお歳暮が届いて、先生と呼ばれる仕事だから両親も誇らしげだったし、やめる理由がなかったのだ。
時間に余裕が出来てきた大学3年の夏から思いつきで始めたバイトなのに、ここまで続けてこれたのは、それなりに私が努力したからだと思う。
そんな私の努力を支えてくれたのが、貴司だった。

貴司は音楽教室の運営会社のスタッフで、私達講師のスケジュールを管理する立場だった。
当然毎日顔を合わせ、なにかと話をすることになるので、親しくなるのにそんなに時間は掛からなかった。
彼は20代後半で仕事は出来たしルックスも性格もよかったから、スタッフやお母さん達の人気者だった。
しばらくして、私は貴司とごく自然に付き合うようになった。
授業を終えた生徒が教室を出ると、打ち合わせを装い彼が入れ替わりに部屋に入って来る。
「お疲れさまでした。明日のスケジュールですが」と仕事口調で話す彼の手が、私の手の上にそっと置かれてたりしたものだ。
二人は、スケジュール帳に予定を書き込むフリをしてよく筆談をした。
(7時にいつものお店で)
(ラジャー)
(その後時間は?)
(あるけど、なにするの?)
(もちろん…××)
そんなアツアツのやり取りを紙の上で交わした後に、なに食わぬ顔で「お疲れさまでした」と言って別れ、行きつけのイタリアンで落ち合う。
携帯電話もメールもない頃の恋愛は、もどかしいけどスリルがあり、懐かしく思える。
二人で楽しく食事をしてから、ホテルに行くのがスゴく楽しみだった。
貴司は、私の初めての男だった。
周りの子達に遅れをとっていたから、それを巻き返したい思いで彼に夢中になったのかもしれない。
デートの誘いを心待ちにして、就職活動をしなければならない時期になっても、彼の望む通りに喜んでバイトを続けていた。
正直に言うと、私は恋愛に免疫がなかったのだ。
音楽大学に入りすぐ弾けて遊び回る学生が多い中、真面目だった私は彼に出会うまでの2年間勉強ばかりしていた。
親が厳しかったからでもあったけど、どちらかと言うと遊んでいる同級生達を馬鹿にしていたほどだ。
生粋のバージンだった私にとって、突然訪れた最初の恋が嬉しくってたまらなかった。
彼の好きなビートルズの「ガール」を突然弾いてあげたり、バレンタインデーに手作りのまずいケーキをプレゼントしたり、初めての事ばかりで楽しかったなあ。
教室の近くで待ち合わせたいと言って彼を困らせたり、間違えたフリして他の講師と話している部屋を開けたり、自分にも嫉妬という感情があるんだって事を初めて知らされた。
そんな楽しい日々がずっと続くものだと思っていた。
例え彼に奥さんがいても。


続く…
posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 11:49| Comment(0) | 田村充義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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